二酸化炭素消火設備が設置された部分又はその付近で工事等作業を行う際の事故防止対策実施マニュアル
二酸化炭素消火設備が設置された建物において、防護区画内又はその付近で工事等作業を行う際の事故防止策を徹底するため、建物関係者、施設部分管理者及びエ 事等事業者が事故防止策を徹底する上で基本となる閉止弁の閉止等の事故防止策に係る手順その他の必要な事項を定めることを目的にマニュアルを策定しました。
●二酸化炭素消火設備とは
・防護区画(二酸化炭素が放射されるエリア)内に二酸化炭素を放出し、酸素濃度を低下させ、消火します。 ・消火に伴う汚損が少ない等の特徴から、機械式駐車場や電気室などに多数設置されています。 ・設備が作動し、二酸化炭素が放射されると、防護区画内での視界は遮られ避難が難しくなるとともに、高濃度の二酸化炭素は、人体に影響*を与え、場合によっては生命の危険性が生じます。 ※最低中毒濃度は2%で、消火に用いる濃度(ね35%)では、即時に意識喪失に至る。また、高濃度(55%以上)で酸素欠乏症とあいまって、短時間で生命が危険になります。

●二酸化炭素消火設備に係る死者が発生した 事故事例(令和2年度以降)
令和2年12月 | 令和3年1月 | 令和3年4月 |
愛知県名古屋市のホテルにおいて、機械式駐車場内でのメンテナンス工事中に、機械式駐車場内に二酸化炭素が放出した(死者1名、負傷者10名)。 | 東京都港区の事務所ビルにおいて、二酸化炭素消火設備の点検中に、二酸化炭素の消火剤の貯蔵容器を設けた場所で二酸化炭素が放出した(死者2名、負傷者1名)。 | 東京都新宿区の共同住宅において、機械式駐車場内での天井ボードの張替え工事中に、機械式駐車場内に二酸化炭素が放出した(死者4名、負傷者2名)。 |
●用語の定義
![]() 二酸化炭素消火設備を設置している建物の所有者、管理者又は占有者をいう。 建物関係者が該建物の管理を契約により委託した二酸化炭素消火設備の管理権原を有する管理会社等を含む。 |
![]() 管理会社等のうち、建物関係者との契約に基づき、機械式駐車装置、ボイラー設備、気設備、通・情報処理設備等(以下「工事等対象設備」という。) が設けられた施設部分についてのみ管理を受託し、二酸化炭素消火設の管理については、権原を有さない者(工事等対象設備の道・管理会社等)をいう。 |
![]() 工事作業(工事契約に基づき、機械式駐車装間、ボイ ラー設備、電気設備、通信・情報処理設等(以下「エ事等対象設備」という。)の新設工事、入替工事、改修工事その他二酸化炭素消火設備の直接関係しない工事(天井張替え工串、内装工事等)のため行う作業をいう。)及びメンテナンス作業(メンテナンス契約に基づき工事等 対象設備その他二酸化炭素消火設備に直接関係しない設備に係る機能維持のため行う作業をいう。) |
●二酸化炭素消火設備に係る建物関係者の責務
①二酸化炭素消火設備に係る設置及び維持 消防法令で定める技術基準に従い、二酸化炭素消火設備を設置し、及び維持する(法第17条第1項、規則第 19条の2)。
② 二酸化炭素の危険性等に係る標識の設置 防護区画の出入口等の見やすい箇所に、二酸化炭素の危険性等に係る標識を設置する(規則第19条第5項第 19ライ(木))。
③閉止井の設置 閉止弁を設置する(規則第19条第5項第19号イ(ハ)。 ※施行日(令和5年4月1日)に現に存する防火対象物等における二酸化炭素消火設備については、経過措営期間(令和6年3月31日まで)が設けられている。
④消防用設備等の点検 消防設備士又は消防設備点検資格者に点検させ、その結果を消防長又は消防署長に報告する(法第17条の3の3)。
●事故防止のための安全対応の実施に係る建物関係者の責務
1 事故防止のための安全対応の実施事項
建物関係者は、事故防止のための安全対応として次の(1)及び(2)を行うこと。
(1)工事等作業時の安全対応
次の①及び②の対応又は③の対応
①二酸化炭素消火設備の閉止弁を閉止すること。
②二酸化炭素消火設備の自動手動切替え装置を手動起動に切り替えること。 ※二酸化炭素消火設備の起動方式が自動起動である場合に限ります。
③消火設備事業者を手配し、二酸化炭素消火設備の電源を停止する等により、二酸化炭素消火設備の誤操作及び二酸化炭素の誤放出を防止するための措置を講じること。
(2)二酸化炭素放出時の安全対応
二酸化炭素消火設備から消火剤である二酸化炭素が放出された場合に、防護区画内の二酸化炭素が排出されるまでの間、当該防護区画内に人が立ち入らないように維持する対応
2事故防止のための安全対応の実施の委託
建物関係者は、施設部分管理者又は工事等事業者に事故防止のための安全対応の実施を委託する場合は、必要な委託契約を締結する必要がある。
(注意) 委託契約を締結し、施設部分管理者又は工事等 事業者が工事等作業において事故防止のための安全対応を行う場合であっても、二酸化炭素消火設備の管理に係る権原は依然として建物関係者にあることに留意すること。
事故防止のための安全対応の実施を委託する場合の建物関係者がやるべき事項チェックリスト
□契約締結により責任の所在を明確にする
・事故防止のための安全対応に関する契約条項を設ける方法。
・すでに委託している契約とは別に、事故防止のための安全対応について新たに委託契約を行う方法。
□委託内容を明確にする。
■工事等作業の実施に際し、建物関係者が不在とならざるを得ない時間帯など、施設部分管理者又は工事等事業者が事故防止のための安全対応を行うべき時間帯
■ 閉止弁が設けられた場所までのルートの確保(当該ルートの進入に係る権限移譲)及び鍵の管理方法
■建物関係者が自ら実施すべき事故防止のための安全対応の範囲及び施設部分管理者又は工事等事業者が実施すべき事故防止のための安全対応の範囲
■工事等作業が終了した際の二酸化炭素消火設備の閉止弁 の開放に係る建物関係者への連絡方法及び建物関係者による開放状況の確認方法
■二酸化炭素消火設備の構造、事故防止のための安全対応としてとるべき措置の具体的内容及び二酸化炭素消火設備に係るメーカー等への問い合わせ連絡先
■建物関係者が事故防止のための安全対応の実施を消火設備事業者に委託する場合は、消火設備事業者の手配及び当該消火設備事業者が行う措置の具体的内容
□委託内容に係る取り決め
建物関係者と施設部分管理者又は工事等事業者の間で、事前に次の事項について取り決めを行うこと。
■安全対応の実施責任の範囲
■二酸化炭素の放出防止に係る管理責任の範囲
■鍵の管理責任の範囲
■事故等が発生した際の発生原因に応じた費用の負担
■ 閉止弁の開放に係る管理責任の範囲
■安全対応の実施状況等に係る報告方法
■ 自動手動切替え装置の切替えキーの管理責任の範囲
□事故防止のための安全対応の実施の委託に際して建物関係者が実施すべき事項
■閉止弁及び自動手動切替え装置の識別
・閉止弁及び自動手動切替え装置をその設置場所において容易に理解し、識別できるよう、必要な表示又は掲示を行うこと。
・二酸化炭素消火設備に接続された受機や防災センターなど判別しやすい場所に「感知器が接続された二酸化炭素消火設備がある」等の表示を設けること。
■閉止弁及び自動手動切替え装置の取扱いに係る周知
工事等作業に先立ち、現場において、施設部分管理者又 は工事等事業者に対し、閉止弁及び自動手動切替え装置 の具体的な取扱いについて、周知すること。
■閉止弁及び自動手動切替え装置の操作のための手順害の提示 事故防止のための安全対応として施設部分管理者又は工事等事業者がとるべき措置に係る必要な操作に関する手順書を作成し、施設部分管理者又は工事等事業者に提示すること。
●工事等作業の実施に際しての留意事項
工事等作業に関係する建物関係者、施設部分管理者、エ事等事業者及び必要に応じて消火設備事業者は、事前に打ち合わせの場を設け、以下を実施する。
(1)各立場(発注者、元方事業者、関係請負人)に応じた責任の確認
(2)作業を安全に実施するための必要な情報の共有
(3)連絡方法の確立
(4)緊急時の対応の周知
●工事等作業時の確認事項
①工事等作業の実施日時
・建物関係者、施設部分管理者、工事等事業者及び必要に応じて消火設備事業者で協議して決定すること。
・工事等事業者の一方的な都合で工事等作業の実施日時を決定しないよう注意する。
・建物利用者が多い時間帯に工事等作業を実施する場合や、工事等作業が2日以上となる場合、夜間又は休日等に工 事等作業を実施する場合など、様々な条件を十分に勘案する。
②関係官公庁への届出
工事等作業において、消防法令やその他の関係法令(高 圧ガス保安法、労動安全衛生法令等)に基っく出や手続きが必要になる場合があることから、建物関係者は事前に届出等の有無について確認しておくこと。
③二酸化炭素消火設備に係る図書の確認
・建物関係者は、工事等作業に際して、二酸化炭素消火設備の設計図費、設置届出費、試験結果報告書、点検結果報告書、修理整備経過表、取扱いに関する図書等(以下「関係図書」という。)を工事等事業者及び施設部分管理者に提示すること。
※必要に応じて、消火設備メーカー等に補助を依頼すること。
・工事等事業者及び施設部分管理者は、関係図書を確認し、二酸化炭素消火設備のシステム構成等を理解し、安全対策の検討に活用すること。
※不明点がある場合は、事前に、建物関係者に消火設備 事業者への手配の依頼又は各消火設備メーカー等に必要な安全対策等について確認を行い、事故防止のために必要な対策の内容や手順等について、十分に理解しておくこと。
④工事等作業の範囲
工事等事業者は、工事等作業を行つ範囲に二酸化炭素消火設備を構成する機器が設置されていないかを確認すること。
⑤工事等作業中の火災や事故等の発生時の対応策及び緊急連絡先
建物関係者及び工事等事業者は、工事等作業中の火災、事故等の発生時の対応策について確認する。
工事等作業中は、火災発生時に二酸化炭素消火設備が使用できない可能性があることから、初期消火方法(緊急対応用の消火器の設置等)を検討しておくこと。
二酸化炭素消火設備が誤って起動した場合や、二酸化炭素が誤って放出された場合の対応について確認しておくこと。
※二酸化炭素消火設備が作動した時に流れる警報音についても事前に確認しておくこと。
・事故等が発生した際の連絡先(建物関係者、消防機関、消火設備事業者等)を確認しておくこと。
⑥第三者の出入りの可能性
・建物関係者及び工事等事業者は、当該建物の営業状況等を確認し、工事等作業中に当該建物に建物利用者が出入りする可能性があるかを確認しておくこと。
・建物利用者が出入りする可能性がある場合は、建物利用者に影響を及ぼさないように、必要に応じて建物の該当場所周辺の利用制限、通行制限等の対応をとるとともに、緊急時の避難誘導方法についても確認しておくこと。
・作業場所等によって建物利用者と近接が想定される場合は、警備員等を配置し安全を確保すること。
工事等作業実施前の準備時に工事等事業者がやるべき内容のチェックリスト
事故防止のための安全対応に際して実施すべき事項
□工事等作業費任者の配置
(1) 工事等事業者は、工事等作業を安全に実施するため、あらかじめ本マニュアル等に基づいて二酸化炭素消火設備に係る知識の教育を受けた者を工事等作業責任者として配置すること。工事等作業費任者は、次の事項について理解し、実施できること。
①二酸化炭の危険性及び二酸化炭素消火設備に係る知識(機器構成、機能概要、注意事項等)を了知し、エ事等作業員に対し、必要な指導を実施できること。
②閉止弁及び自動手動切替え装置を識別し、事故防止のための安全対応が実施できること。
③工事等作業に際して実施すべき安全対策を実施できること。
④二酸化炭素の誤放出時の対応が適切に実施できること。
(2) 施設部分管理者又は工事等事業者は、工事等作業責任者に対し、所要の社内教育により必要な知識を習得し、かつ、工事等作業の実施に係る権限と責任を有する任に適当と承認した旨の証明書等を交付すること。
□閉止弁及び自動手動切替え装置の取扱いに係る周知 施設部分管理者又は工事等事業者は、工事等作業責任者及び工事等作業員に対して、建物関係者から周知された閉止弁及び自動手動切替え装置の具体的取扱いについて、周知すること。
工事等作業実施前の準備
■安全对策
□危険予防(KY)による工事等作業員に対する周知
□ 工事等作業時の安全対応
□工事等作業の内容に応じた二酸化炭素放出時の避難経路及び避難方法の確認
□二酸化炭素消火設備に関する注意事項
□二酸化炭素消火設備に触れないことの徹底
□二酸化炭素の危険性
□閉止井の設置位置及び閉止状態であることの確認
□当日の工事内容、工事範囲、注意事項、工程表、注意事項、緊急時の対応策及び連絡先の共有
□二酸化炭素消火設備の起動装置の表面に「さわるな・きけん」等の看板の貼付
□防護区画及びその周辺に「立入禁止」の表示板の設置
□監視人の配置
□必要に応じて、防護服、ヘルメット、安全靴等の安全装備及び自給式呼吸保護具(空気呼吸器)の着装
□火災発生時の緊急対応用の消火器の配置
■事故防止のための安全対応の実施状況の確認
工事等作業責任者は、工事等作業前に、事故防止のための安全対応が確実に行われたかどうか自ら確認すること。
●工事等作業中の注意事項
①二酸化炭素消火設備の構成機器の破損
二酸化炭素消火設備の構成機器(感知器等)の破損に注意すること。
※はつり工事を伴う場合は、配線を切断してしまう可能性が高いため特に注意が必要である。
②建物利用者への注意喚起
建物利用者が工事等作業場所又はその付近に近づかないように、必要に応じて注意喚起を行うこと。
③工事等作業員の間の連絡
工事等作業責任者の監督の下、工事等作業員の間で密に連絡を取り合うこと。
④工事等作業の中止
工事等作業中に危険性を感じた場合(焦げ臭い臭気がある、通常どおり工事等対象設備が作動しない等) は、直ちに全ての工事等作業を中止し、屋外等の安全な場所へ避難すること。
⑤二酸化炭素の誤放出時の避難等
・直ちに屋外等の安全な場所へ避難すること。
・防護区画の隣室は、防護区画の扉等が閉まっていても隙間から二酸化炭素が漏洩する危険があるため、隣室への移動で完了とせず、屋外等の安全な場所まで一気に避難すること。
⑥避難後の対応
工事等作業員が屋外等の安全な場所へ避難した後、速やかに消防機関へ通報(119番通報)を行うこと。
また、建物関係者は、防護区画内への再度入室することを禁止するとともに、人が防護区画付近に近づかないよう措置すること。
●工事等作業終了後の報告及び確認事項
工事等作業終了後の報告及び確認時に工事等事業者がやるべき内容のチェックリスト
工事等作業終了後の報告及び確認
■工事等作業終了後の報告
□工事等作業の完了及び異常の有無
(工事等作業時の安全対応に関する委託契約をしていない場合)
□建物関係者に対し、工事等作業時の安全対応の復旧を要請
(工事等作業時の安全対応を実施する場合)
□工事等作業を確実に実施した後、その旨を建物関係者に報告
■建物関係者とともに行う確認事項等
□防護区画内が無人であること。
□二酸化炭素消火設備に破損、変更等がないこと。
工事等作業時の安全対応の復旧
・閉止弁の開放・自動手動切替え装置を自動起動に切り替え
□二酸化炭素消火設備の起動装置の表面の「さわるな・きけん」等の看板の撤収
□防護区画及びその周辺の「立入禁止」の表示板の撤去及び必要に応じて建物利用者に対する館内放送等による工事完了の周知
□火災発生時の緊急対応用の消火器の撤収